コラム
物流業界「2024年問題」後のリアル -時間外労働上限・同一労働同一賃金とこれからの労務課題-
弊社でも運送業を営む事業所様から「アフター 2024 問題」について多くのご相談を頂いております。
また、従業員数50 人未満でも産業医選任をご依頼くださるケースが増えており、本稿ではそうした現場の声を踏まえて課題を整理しました。
1. 働き方改革が運送業に本格適用された背景
2019 年に始まった働き方改革関連法は、自動車運転の業務だけ適用が猶予されてきましたが、2024 年4 月1 日からついに本格施行され、「物流の 2024 年問題」と呼ばれる構造変化を招いています。
2. 時間外労働の上限規制 -年 960 時間が示すインパクト-
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年960 時間(休日労働を除く)がドライバーの時間外労働の絶対上限
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月100 時間未満・2~6 か月平均80 時間以内という一般業種の追加上限は「自動車運転の業務」には未適用
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月45 時間超えは年6 か月までという制限も未適用
これにより、「長距離一人乗務」が難しくなり、運行計画の再構築や中継輸送導入が迫られています。
3. 同一労働同一賃金 -ドライバー間ギャップ是正の現在地-
大企業は2020 年、中小企業も2021 年から適用が始まりましたが、運送業では
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嘱託・定年再雇用ドライバーに皆勤手当や無事故手当を支給しない慣行が裁判で不合理と判断
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業務内容が同じでも契約社員に諸手当が付かないケースが散見
正社員・非正規間の手当・休暇・教育機会を棚卸しし、「不合理な格差」を一掃する作業が続いています。
4. 制度適用後に噴出した“3つのギャップ”
ギャップ | 具体的現象 | 主な影響 |
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① 賃金ギャップ | 時間外手当減→月収減 | ドライバーの離職意向が5割超との調査も |
② 輸送ギャップ | 拘束時間削減→走行距離短縮 | 国交省試算で2024 年度14 %・2030 年度34 %の輸送能力不足が懸念 |
③ 人材ギャップ | 高齢化+免許制度改正で若年層流入が細る | 継続的な採用・教育体制なしでは事業継続が困難 |
現場からは「従来の関東⇔新潟線が走破できない」「冬季の灯油配送が滞る懸念」など切実な声が上がっています。
5. 今後の労務課題と産業医ができるサポート
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健康管理の再設計
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拘束時間短縮で休息は増えても、賃金減による副業・睡眠不足リスクが表面化
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労基法66条の医師による面接指導やストレスチェックを“運行単位”で実施
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運行効率化と荷主連携
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荷待ち時間・手積み荷役を削減するシステム導入、パレット化推進、共同配送・中継輸送の検証
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公正な賃金体系の構築
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基本給・職務給を引き上げ、「走行距離×出来高」偏重から脱却
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手当の合理性を厚労省ガイドラインで点検し、説明責任を果たす
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多様な人材戦略
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女性・高齢者向けのショートルート設定、AT限定対応車両への更新
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免許取得費用の会社負担やデジタコ等ICT支援で若年層を呼び込む
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産業医事務所の役割
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「勤務間インターバル」「睡眠環境」「脊柱・腰痛対策」などドライバー特有の健康課題を踏まえた衛生委員会アドバイス
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労働時間データを用いた過重労働面談と安全運転指導・教育プログラムの共同開発
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まとめ -持続可能な物流に向けて-
2024 年は「規制開始」ではなく「変革元年」です。
時間外労働上限と同一労働同一賃金は、輸送品質・安全・働きがいを同時に高めるチャンスでもあります。
当産業医事務所では、
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健康管理体制の構築
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労務データの分析と改善提案
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荷主企業を巻き込む協働フォーラムの開催
を通じて、貴社の“アフター2024”を伴走サポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。