コラム
健康診断で異常を指摘されたとき(8)尿検査
はじめに
今回は、健康診断や人間ドックで行われる尿検査の意義と、その結果から疑われる疾患についてお話しします。尿検査は、腎臓の状態や体内の代謝・排泄機能を把握するうえで非常に重要な検査です。血液検査と同様、尿検査で異常値が認められた場合も、放置せず原因を突き止めることが必要です。特に産業医の立場からは、労働環境が腎臓や泌尿器系への負担となっていないかを考慮することも重要です。ここでは、尿検査の主な指標や異常値の原因、さらに「要再検査・精密検査」とされた場合の対応などについて解説します。
尿の生理学的役割と尿検査の意義
尿の生成と腎臓の役割
私たちの腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分・電解質を尿として排出するとともに、体内の水分や電解質バランスを調整しています。腎臓が正常に機能している場合、血中の不要物質が効率よく排出され、身体の恒常性(ホメオスタシス)が保たれます。
尿検査の意義
健康診断や人間ドックで行われる尿検査は、以下のような点を評価するために実施されます。
- 腎臓機能の評価
- 蛋白尿や潜血尿がないか、腎臓のろ過機能に問題が生じていないかをチェックする。
- 全身状態のスクリーニング
- 尿糖やケトン体などから、糖尿病や代謝異常の可能性を評価する。
- 泌尿器系疾患のスクリーニング
- 尿中に細菌や白血球がみられる場合、感染症(膀胱炎や腎盂腎炎など)が疑われる。
健康診断・人間ドックにおける主な尿検査項目
- 尿蛋白
- 正常: 陰性(-)
- 異常所見の例: (+) 以上
- 考えられる原因:
- 腎臓のろ過機能の低下(慢性腎臓病、糸球体腎炎など)
- 一時的な負荷(発熱、激しい運動、ストレスなど)
- 妊娠中毒症(女性の場合)
- 労働環境との関連:
- 長時間労働やストレス、脱水状態が続くと、一時的な蛋白尿が出現しやすくなる。重労働や強いストレス要因がある場合は、産業医に相談して労働条件を見直すことが重要。
- 尿潜血(尿中赤血球)
- 正常: 陰性(-)
- 異常所見の例: (+) 以上
- 考えられる原因:
- 泌尿器系の疾患(腎臓結石、腎炎、膀胱炎、尿路結石、腫瘍など)
- 激しい運動後、月経血の混入(女性の場合)
- 労働環境との関連:
- 腎臓や泌尿器系に負担のかかる化学物質への曝露や、過度な肉体労働、慢性的な脱水などが持続している場合は注意が必要。
- 尿糖
- 正常: 陰性(-)
- 異常所見の例: (+) 以上
- 考えられる原因:
- 糖尿病、腎性糖尿(腎臓でブドウ糖の再吸収が低下)
- 一時的な高血糖状態(ストレス、過食、ステロイド薬の使用など)
- 労働環境との関連:
- シフトワーク(交代制勤務)や不規則な食事時間が続くと、血糖コントロールが乱れやすく、尿糖が検出される場合がある。産業医は生活リズムの改善を含めてアドバイスする。
- 尿ウロビリノーゲン・ビリルビン
- 異常所見の例: ウロビリノーゲン高値、ビリルビン陽性
- 考えられる原因:
- 肝機能障害(ウロビリノーゲンやビリルビンの排泄異常)
- 胆汁うっ滞、溶血性疾患など
- 労働環境との関連:
- 有機溶剤や重金属など肝臓に負荷のかかる化学物質を取り扱う職場では、肝機能への影響が懸念される場合がある。
- 尿沈渣(顕微鏡検査)
- 赤血球・白血球の有無、結晶の種類などを詳しく確認する検査
- 異常所見がある場合、尿路感染症、腎疾患、結石など多岐にわたる原因が考えられる。
- 特に労働環境で強いストレスや脱水、化学物質への曝露があると、尿沈渣に異常が出やすくなる場合がある。
「要再検査・精密検査」とされた場合の流れ
健康診断や人間ドックで尿検査に異常が見つかり、「要再検査」や「要精密検査」と判定された場合、以下のステップで進めることが一般的です。
- 再検査・追加検査
- 水分状態や食事状況などを整えたうえで再度尿検査を行い、異常の有無を確認する。
- 必要に応じて血液検査や画像検査(エコーやCTなど)を組み合わせることで、腎臓や尿路の病変をさらに詳しく調べる。
- 原因の特定
- 検査で異常が続く場合、腎臓内科や泌尿器科など専門の医療機関を受診し、原因の特定を進める。
- 労働者の場合、業務内容や労働環境のヒアリングも行い、化学物質や重労働、長時間労働などが影響していないか産業医とともに検討する。
- 治療およびフォローアップ
- 異常所見の原因に応じて、生活習慣の改善や薬物療法を開始する。
- 腎疾患や泌尿器系疾患の合併症や進行を防ぐため、定期的なフォローアップが重要。
- 必要に応じて、勤務形態の調整や配置転換などの産業医による就業上の配慮も検討する。
産業医の視点:労働環境と尿検査異常
産業医は、従業員の健康保持・増進だけでなく、業務や作業環境が健康に及ぼす影響にも着目します。尿検査で異常を指摘された場合、以下のようなポイントを踏まえて対応することがあります。
- 労働環境の確認
- 長時間労働、交替制勤務など生活リズムが乱れやすい勤務形態かどうか。
- 化学物質や粉じん、重金属など、腎臓や泌尿器系に悪影響を及ぼす可能性のある曝露源がないか。
- 過度な発汗や熱中症リスクが高い職場で脱水状態が続いていないか。
- 生活習慣へのアドバイス
- 規則正しい生活と十分な睡眠を確保するよう指導。
- こまめな水分補給を促し、脱水を防ぐ。
- 食事面では塩分過多・高タンパクの偏った食事を見直し、バランスの良い食事を推奨。
- 就業上の配慮
- 疾患の種類や程度、治療状況を踏まえたうえで、作業内容や負荷を調整する。
- 尿蛋白が持続している場合など、症状に応じた職務変更や休養の提案を行うこともある。
まとめ
尿検査は腎臓や泌尿器系の機能を評価する重要な検査です。健康診断で尿検査に異常を指摘された場合、一時的な体調不良やストレスが原因の場合もありますが、放置すると腎機能の低下や重篤な疾患につながる可能性があります。特に労働環境や職種によっては、化学物質曝露、長時間労働、激しい肉体労働などが腎臓や泌尿器系に影響を及ぼすケースもあるため、産業医や専門医と連携して原因を把握し、適切な対策を講じることが大切です。
健康診断の結果で「要再検査・精密検査」と判定された場合は、早めに医療機関を受診し、再検査や追加の検査で原因を特定しましょう。生活習慣の改善、労働環境の見直し、必要に応じた薬物療法など、適切な対応を行うことで病気の進行を防ぎ、健康的な日常生活や安全な労働環境を維持することが可能になります。仕事と健康を両立させるうえで、尿検査異常をきっかけに、より良いライフスタイル・働き方を見直す機会にしていただければ幸いです。