コラム
健康診断で異常を指摘されたとき(7)血糖値
はじめに
健康診断や人間ドックにおいて「血糖値の異常」を指摘された場合、糖尿病や耐糖能異常(糖尿病予備群)といった生活習慣病が疑われるだけでなく、労働環境や働き方が影響している可能性も考慮する必要があります。特にシフト勤務や交代制勤務の方は、食事の時間や睡眠リズムが不規則になりやすく、血糖コントロールに悪影響を及ぼすケースが少なくありません。
本コラムでは、血糖値検査の意義、異常が指摘された場合の対応策、そして産業医の視点からみた職場環境の影響と就業上の配慮について解説します。早期に自分の血糖状態を把握し、必要に応じて生活習慣の改善や医療機関の受診を行うことで、合併症の発症リスクを減らし、健康的に働き続けるためのポイントを確認していきましょう。
血糖値検査の意義
血糖値とは
血糖値は、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を示す数値で、私たちが活動するためのエネルギー源をどの程度保有しているかを知る重要な指標です。主に膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンなどのホルモンの働きによって、血糖値は常に一定の範囲内に保たれるよう調節されています。
健康診断で測定される主な項目
- 空腹時血糖値
- 食事を摂取していない状態(通常は10時間前後絶食後)で測定する血糖値。
- 正常値は70~99 mg/dLが目安とされ、100 mg/dLを超える場合は血糖値上昇の可能性を示唆します。
- HbA1c(ヘモグロビンA1c)
- 過去1~2か月程度の平均血糖値を反映する指標。
- 正常値は5.6%未満(NGSP値)とされ、5.6%を超える場合は糖尿病や耐糖能異常を疑います。
- 随時血糖値
- 空腹時に限らず、任意の時間帯で測定する血糖値。食後や運動後など状況によって大きく変動することがあります。
血糖値異常が指摘された場合の対応
- 医療機関の再受診・精密検査
- 空腹時血糖値やHbA1cが基準値を超えた場合は、内科や糖尿病専門医への受診が推奨されます。
- 必要に応じて経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)やインスリン分泌能検査などを追加で行い、糖尿病やその前段階(耐糖能異常)の有無や病状を詳しく把握します。
- 生活習慣の見直し
- 食事管理: 過度な糖質やカロリー摂取、偏った食生活を改め、バランスの取れた食事を心がけます。
- 運動習慣: ウォーキングや筋力トレーニングなど適度な運動を取り入れ、インスリンの感受性を高めます。
- 禁煙・節酒: 喫煙や過度のアルコール摂取は血糖コントロールを悪化させる要因となります。
- ストレスケア: 過度のストレスはホルモンバランスを乱し、血糖値に影響を及ぼすことがあるため、十分な休息や睡眠が必要です。
- 薬物療法の検討
- 食事や運動による血糖コントロールが難しい場合や、血糖値が著しく高い場合は、内服薬(経口血糖降下薬)やインスリン注射などの薬物療法が検討されます。
- 医療機関での定期的なフォローアップによって、合併症(腎症、網膜症、神経障害など)の早期発見・予防を行います。
産業医の視点:働き方と血糖値管理
- シフト勤務や交代制勤務の見直し
- 夜勤や不規則勤務は食事時間や睡眠リズムが乱れ、血糖コントロールに悪影響を及ぼしやすいとされています。
- 産業医は、従業員が過度に交代勤務に従事していないか、十分な休息を取れているかをチェックし、必要に応じて職場の労働時間管理の改善やローテーションの見直しを提案します。
- 長時間労働やストレスの把握
- 残業が多い、精神的プレッシャーが大きい職場は、ストレスホルモンの増加で血糖値が高まりやすくなります。
- 産業医や管理監督者が協力し、長時間労働者の面談やストレスチェックの結果を確認しながら、従業員のメンタル面・身体面双方への配慮を行います。
- 職場での健康支援プログラム
- 管理栄養士や保健師を活用した食生活指導や、社内運動イベント、昼休みのウォーキング会などを企画し、従業員が継続的に健康管理を行える環境を整備します。
- 特に、メタボリックシンドロームが疑われる従業員には特定保健指導を積極的に案内し、血糖値以外の生活習慣病リスク要因(脂質異常、高血圧など)も総合的にチェックしてフォローアップします。
- 就業上の配慮
- すでに糖尿病の治療中でインスリン注射や経口薬を使用している場合、業務中の休憩時間帯や注射スペースの確保など、産業医の意見を踏まえた就業上の配慮が必要です。
- 血糖値の乱高下を防ぐため、小まめな食事(軽食)の導入や水分補給の指導など、職場ルールを柔軟に検討することも重要です。
まとめ
血糖値の異常は、一見すると大きな症状がないまま進行することが多く、放置すると糖尿病や合併症につながるリスクがあります。健康診断で「高血糖」や「HbA1cの上昇」が指摘されたら、まずは医療機関を受診して原因を特定し、そのうえで生活習慣の改善や必要に応じた治療を進めることが大切です。
また、働き方や職場環境が血糖コントロールに影響を与えている場合も少なくありません。産業医や管理職との連携を図り、シフト勤務の調整、ストレス対策、社内での健康支援プログラムなどを活用することで、血糖値管理を含めた総合的な健康管理が期待できます。定期的な健康診断と早期対応を通じて、身体だけでなく仕事のパフォーマンスも良好に保ち、より健康的な職業生活を続けていきましょう。