コラム
健康診断で異常を指摘されたとき(4)貧血
「健康診断で異常を指摘されたとき」第4回は、貧血について、いくつかある貧血のタイプや、原因と治療方法についてお話をさせていただきます。
貧血とは
貧血とは、血液中の赤血球の数や、赤血球内の成分で酸素を運搬する役割を担うヘモグロビンというタンパク質の量が減少している状態のことです。
赤血球に含まれるヘモグロビンは、血流に乗って肺に取り込まれた酸素を全身に運ぶ重要な役割を担っているので、ヘモグロビンの量が低下すると全身の組織に充分な酸素が供給されず、頭痛やめまい、動悸、息切れ、耳鳴り、頻脈などの症状が起こります。
貧血の原因
貧血の原因としては、出血などに伴う喪失、鉄やビタミンの欠乏による栄養障害、血液疾患などを原因とする赤血球の産生障害や機能異常などが認められます。
①出血に伴う喪失
出血を起こす原因として、比較的多く見られるものでは、月経や、子宮筋腫などの婦人科疾患、胃潰瘍や消化管腫瘍からの消化管出血などが挙げられます。
②鉄やビタミンの欠乏による栄養障害
若年女性に多い貧血がヘモグロビンの材料となる鉄の不足によるもので、貧血の約 70 % が、鉄欠乏性貧血だといわれています。
鉄欠乏貧血は、偏った食事やダイエットなどによる鉄の摂取不足や、鉄の吸収障害、鉄の消費量増大、鉄の排泄増加などにより起こります。
特に女性は月経により鉄が定期的に排泄されるため、慢性的に鉄欠乏状態になりやすく、少量でも出血が続くと容易に貧血になってしまいます。
また前述のように、婦人科疾患や消化管出血などの疾患が原因で出血していることがあるので、原因検索のための検査を受けることは重要です。
ビタミンB12や葉酸が不足すると、異常な赤血球が作られてしまう巨赤芽球性貧血という病気を引き起こします。
ビタミンB12は肉や魚に多く含まれており、通常の食生活では不足することはありませんが、偏った食事や大量の飲酒が原因で不足することがあります。
またビタミンB12を吸収するためには、胃から分泌される内因子というものが必要ですが、胃を手術で摘出していたり、何らかの胃腸の障害が原因で、食事からビタミンB12を正常に吸収できなくなった場合も同様の障害が起こります。
葉酸は、妊娠により不足することが多く、状況に応じて適宜補充が必要です。
③赤血球の産生障害
赤血球を作る機能の障害として、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの血液疾患や、慢性腎臓病などがあります。
再生不良性貧血や骨髄異形成症候群は、赤血球だけでなく、白血球や血小板も正常に作れなくなる疾患で、貧血以外にも、白血球減少による易感染、血小板減少による出血傾向などが認められます。
慢性腎臓病による貧血は、腎臓の疾患により、エリスロポエチンというホルモンが正常に働かず、骨髄での赤血球の産生が促進されなくなる貧血です。
④赤血球の機能障害
赤血球の機能異常を来す疾患としては、溶血性貧血という赤血球が壊れやすくなってしまう疾患などがあり、赤血球の寿命が短くなってしまうことにより、貧血を引き起こします。
貧血の検査
貧血の診断には、血液中のヘモグロビン濃度を測定しますが、その他にも原因検索のために、赤血球数、ヘマトクリット、血清フェリチン、TIBC/UIBC、網状赤血球などの項目も測定します。
貧血と診断されるヘモグロビン濃度は、WHOの基準では成人男性 13.0 g/dL 未満、成人女性と小児は 12.0 g/dL 未満、高齢者は 11.0 g/dL 未満とされています。
国内の人間ドック学会の基準では、成人男性 13.1~16.3 g/dL、成人女性 12.1~14.5 g/dL とされています。
更に貧血が疑われた場合には、貧血の原因を検索するために、消化器出血を疑う場合には、便潜血検査や消化管内視鏡検査を、婦人科疾患を疑う場合には内診や超音波検査を行います。
貧血の薬剤治療
貧血を引き起こしている原因によって、治療法は異なります。
最も多く見られる鉄欠乏性貧血は、鉄剤の内服により体内のヘモグロビン濃度が上昇し、2~3ヵ月程度で正常になるのが一般的です。
その後貧血が改善しても、鉄剤の服用は数ヶ月程度継続して、血液検査で貧血の改善が得られているか、また体内の鉄貯蔵の指標となるフェリチン値の改善が認められるかなどを、定期的に確認しながら治療を継続する必要があります。
また貧血の原因となる疾患がある場合は、その原因疾患を治療することが重要です。
ビタミンB12あるいは葉酸の不足が原因の巨赤芽球性貧血も、これらの栄養素を薬剤で補充しますが、胃に異常があるなど、ビタミンB12の消化管からの吸収障害が原因の場合は、ビタミンB12を注射により補充します。
貧血の食事療法
①鉄を多く含む食品
肉や魚が不足した食事や、多量のアルコール摂取は、貧血の原因になります。
ヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分を豊富に含む食品を摂取し、バランスの取れた食事を心がけましょう。
タンパク質は、「魚・肉・卵・チーズ・ミルク・ナッツ・豆」など、鉄分は、「レバー・牛肉・赤身の魚・卵・貝類・プルーン・レーズン・豆」などの食品に多く含まれます。
ビタミンB12や葉酸も赤血球やヘモグロビンの材料となるので、「肉・魚介類・大豆・乳製品・ビタミンやミネラルを多く含む海藻や野菜」を積極的に摂取しましょう。
鉄分や葉酸が不足しがちな妊娠中、授乳中も注意が必要です。
②鉄の吸収を改善させる食事
ビタミンCの豊富な野菜や果物を、肉や魚など動物性たんぱく質と一緒に摂取することで、鉄の吸収が良くなります。
また食後はコーヒーを飲むことはなるべく避け、酸味のある食品や香辛料を用いることで、胃酸分泌が高まり、同様に鉄の吸収が良くなります。
まとめ
- 若年女性の貧血は、ヘモグロビンの材料となる鉄の不足によるものが多く、貧血の約 70 % が鉄欠乏性貧血だといわれています。
- 鉄不足が原因の場合には、鉄を多く含む食品の積極的な摂取や、鉄の吸収を促進させるような食事の工夫を行いましょう。
- 貧血の背景に原因となる疾患が隠れていることもあるので、まずは検査を受けて原因を検索することが重要です。