コラム
情報機器作業における労働衛生管理のポイント
情報機器作業ガイドラインの見直し
昨今は様々な業種業態の職場において多様な情報機器を用いた作業が行われており、また新型コロナウィルス蔓延下においてテレワークなどの働きかたが定着したことも相まって、情報機器を用いた作業に関わる労働者の増加から、情報機器作業における労働衛生管理はより一層複雑化しています。
従来のパソコンなどの情報機器を用いた作業以外にも、タブレット端末やスマートフォンなどを用いる場面も多く見られるようになり、令和元年にこれまでの『VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン』が見直され、厚生労働省より新たに『情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン』が提言されました。
このガイドラインの見直しの主なポイントは、
- 「VDT(Visual Display Terminals)」というこれまで用いられていた用語が、新しいガイドラインでは「情報機器」と言う名称に変更された点
- 過去のガイドラインでは、対象となる機器を「ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT機器」としていたが、新しいガイドラインでは技術革新への対応として、タブレット端末やスマートフォンなどの「キーボードを備えておらずディスプレイのみを備えた情報機器」も対象としている点
- 過去のガイドラインでは、作業区分が作業時間と作業の種類ごとに細かく分類されていたのに対して、新しいガイドラインでは「作業時間又は作業内容に相当程度拘束があると考えられるもの」と「それ以外」に簡潔的に分類されている点
などが見受けられます。
情報機器作業による健康への影響
情報機器作業による健康への影響は主に、
1.視機能への負荷
- 眼疲労
眼が疲れる、重たい、ぼやけるなどの生理的な眼の疲労 - 眼精疲労
眼痛、流涙、圧迫感、頭痛、めまい、嘔気などの愁訴を主とする症候群 - ドライアイ
涙の減少や乾燥により、眼の表面に障害を生ずる疾患
2.筋骨格系への負荷(首・肩・背中・腰・下肢)
- キーボードなどの操作による手指や上肢の筋群への負荷
- 上肢を保持するための筋群への負荷
- 姿勢を保持することまたは拘束されることによる筋群への負荷
3.メンタルヘルスへの負荷
- 精神的疲労
- 不眠や抑うつ症状などの精神的負荷
などに分類されます。
情報機器作業において必要とされる3管理
多様な情報機器を用いる働く現場において、快適に作業を行うための具体的な管理方法として、3管理の分類に基づいてご紹介いたします。
1.作業環境管理
- 情報機器の選択
作業に最も適した機器の選択 - 照明、採光
ディスプレイ画面上の照度を 500 ルクス以下に設定する
書類上やキーボード上の照度を 300 ルクス以上に保つ
画面、書類、キーボード面の明るさと、周辺との明るさの差を少なくする
画面に照明器具や窓などが映りこまないようにする - グレア対策
画面の反射をさえぎるフィルターを利用する
ディスプレイの位置を調整する
視野に入る明るい窓には、ブラインドやカーテンを設置する
光源は作業者の視野に入らないようにして、間接照明を効果的に使用する - 騒音対策
不快な騒音の低減措置を行う
2.作業管理
- 作業時間
一連続作業時間を 60 分以内に設定して、小休止を設けながら作業を行う
それぞれの一連続作業時間のインターバルには作業休止時間を 10~15 分間設けて、情報機器作業以外の作業やストレッチ運動を行う時間とする
テレワークにおいては、『タブレット・スマートフォンなどを用いて在宅ワーク/在宅学習を行う際に実践したい7つの人間工学ヒント』では、20 分毎に 20 秒間小休止を取り 20 フィート(約 6 m)先を見るという「20ー20ー20 ルール」が、眼精疲労を防ぐための簡単に自宅でも実践できる方法として推奨されている - 作業姿勢
画面と眼の距離は 40 cm以上離す
画面の上端が眼の位置とほぼ同じか少し下になるように(角度 10 度で見下ろす位置に)して、ディスプレイの配置、デスク、椅子の高さを調節する
視力矯正が必要な場合、情報機器作業中は近くが見えやすい眼鏡を着用して、遠近両用眼鏡は避ける
コンタクトレンズは、ソフトレンズよりハードレンズを使用して、定期的に点眼薬を用いる
傾きを調整できる背もたれに背を充分に当てて、椅子の縁とふくらはぎの間にゆとりを設け、大腿部に無理な圧力が加わらないように、椅子に深く腰掛ける
肘の角度は 90 度以上にして、腕を肘掛けに置いたり、マウス操作の際は手首を固定するための台などを使用する
足元のスペースを確保して、足の裏全体が床に接するように、必要に応じて充分な広さで滑りにくい足台を用意する
3.健康管理
- 健康診断
問診:業務歴、既往歴、自覚症状の有無(視機能・筋骨格系・メンタルヘルスへの負荷に関連するもの)など
視機能に関する検査:視力検査(近視や遠視の検査)、屈折検査、眼位検査、調節機能検査など
筋骨格系に関する検査:上肢の運動機能、圧痛点などの検査、握力やタッピング検査など
テレワークのためのガイドライン
急増しているテレワークなど在宅での働きかたに対して、厚生労働省は令和3年に『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』を提唱しています。
自宅等においてテレワークを実施する場合においても、事業者は労働安全衛生法等の関係法令等に基づき、労働者の安全と健康の確保のため措置を講ずる必要があります(適切な作業環境の確保、健康診断、健康相談の体制整備、安全衛生教育、健康教育、ストレスチェック等のメンタルヘルス対策、長時間労働者に対する医師の面接指導等)。
テレワークで情報機器作業を行うに際して、「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト」などを活用されるもの有用であると考えられます。
まとめ
このように情報革新により情報機器作業の内容も日々刻々と変化しており、それぞれの作業内容や環境に即した管理が必要とされています。
またこれまで「情報機器作業における労働衛生管理」の主な対象は、事務所における情報機器作業でしたが、新型コロナウィルス蔓延下におけるテレワークなどに従事する労働者の増加から、事務所以外での作業に対しても同様の対応が求められるようになっています。
今後も変化を遂げていくと思われる「情報機器作業における労働衛生管理」に対して、産業衛生スタッフの関わりがより一層重視されていくと思われますので、ぜひ産業医と連携を取って、快適な情報機器作業環境の構築を推進しましょう。