コラム
産業医による治療と仕事の両立支援への関わり
両立支援が必要とされる背景
総務省「労働力調査(基本集計)2020年」によると、15歳以上の人口約1億1068万人のうち、約半数の5973万人が雇用者であり、うち役員を除く雇用者も約5629万人を占めています。
65歳以上の就業率は、25.1%と年々増加傾向であり、職場における働く人口も高齢化が指摘されています。
また厚生労働省「定期健康診断結果報告」によると、働く人口の高齢化に伴い、定期健康診断の有所見率は増加傾向であり、現在では労働者の3人に1人が病気を治療しながら仕事をしていると言われています。
このような背景を受けて、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた「第13次労働災害防止計画」では、「疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進」が 8 つの重点事項のひとつに定められました。
「働き方改革実行計画」においても、治療と仕事の両立に向けて、会社の意識改革と受入れ体制の整備を図るとともに、主治医、会社・産業医と、患者 に寄り添う両立支援コーディネーターのトライアングル型のサポート体制を構築することや、労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化を図ることなどが記載されています。
日本人の三大疾病と言われる「がん」「心疾患」「脳血管疾患」の中でも「がん」に注目すると、厚生労働省「治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会参考資料」の性・年齢別がん罹患者数では、30-49歳では女性の罹患率増加が、55歳以上では男性の罹患率増加が目立っており、これらは女性の社会進出や雇用年齢の長期化を反映しているものと考えられます。
厚生労働省「疾患を抱える従業員(がん患者など)の就業継続関連資料」からは、がん患者の3人に1人が就労可能年齢で罹患しているものの、就労がん患者の3人に1人が離職しており、また就労継続できた場合も職業内容や収入に変化をきたしていることなどが見て取れます。
具体的な両立支援プランの作り方
疾患治療を継続するためには、経済的基盤が不可欠であり、また仕事を継続することで生きがいを感じ、治療継続への意欲に繋がる場合も少なくありません。
働く方と事業者双方にとって規定の範囲内で折り合いをつけられるような両立支援プランを、疾患経過や治療スケジュールに応じて、個々に作成する必要があります。
また疾患によっては経過観察と治療期間を繰り返す場合もあり、その時々の病状変化に応じて就業状の措置を見直すといった継続的なフォロー体制も不可欠になります。
具体的には産業衛生スタッフとともに企業が「勤務情報提供書」を医療機関に提出して、それに基づいて医療機関から事業場に対して「主治医意見書」を記載していただき、それを参考に両立支援プランを作成します。
両立支援プランの作成においては、以下の様な点に留意しながら、働く方を中心に、産業医を含めた産業衛生スタッフや主治医が情報を相互に共有しながら、事業者や人事労務担当者から積極的に手を差し伸べられるような環境整備が必要になります。
- 疾病治療管理
通院時間の確保
勤務時間における疾病管理
作業環境の変更
テレワークやフレックスタイム制の導入
- 職務負荷の調整
勤務時間の短縮
休憩時間や休日の確保
- 職場内での連携体制構築
職場での疾病に対する理解
欠勤時のフォロー体制
- 障害に応じた職場環境の整備
休憩場所の確保
支援機器やユニバーサルデザインの導入
- 就業継続のための支援
教育訓練や能力開発
職場復帰支援
産業医による両立支援への積極的な関わり
治療と仕事の両立支援は、普段から相談システムや支援体制の構築などの整備を行い、これを働く人に広く周知することが必要です。
また働く人が、治療を受けながら就業を継続することへの肯定的な意識を持ち、疾患治療を職場に申し出ることへの抵抗を緩和できるような雰囲気作りも重要です。
「労働安全衛生法第13条の3」では、「事業者は、産業医が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない」とされており、産業医の健康相談に対する体制整備が進められています。
産業医としては、普段から事業者や衛生管理者の方と積極的にコミュニケーションを取って、職場の状況を常に把握するように努めることが大切であると考えます。
まだ職場において、産業医による治療と仕事の両立支援への積極的な関わりが行われていない場合は、地域の産業医事務所にご相談下さい。